こんにちは、茨城で創業融資、事業用資金融資をサポートしている行政書士兵藤貴夫です。
その2の続きです。
その後もその店には変わらないペースで通いましたが、その美人妻は何回かはカウンターの中で見たように思います。
しかしおよそ一月くらい立った頃でしょうか、ぱったりとカウンターの中にも外にもその姿を見ることはなくなりました。
その所在をマスターに確認しようとしたときに、何か触れてはいけない雰囲気を感じて、口をつぐみました。
その後も、ついにその奥さんの姿を店で見ることはありませんでしたし、自分もその話題には触れないようにしていました。
ただ、ある晩にやはり常連らしい客に聞かれて、マスターが
「逃げられた」
と答えたのを覚えています。
そのときに「聞かなくて良かった」とつくづく思いました。
ある晩に店に入ると、カウンターに常連らしい客がひとりいるだけでした。
いつものように自分もカウンターに座ると、マスターがカウンターの中で怒っていました。
そして自分とそのもう一人の客に
「結婚した妻があるときに失踪したこと」
「最初から逃げるつもりだったらしいこと」
「ずっと夜の商売をしていたらしいこと」
「日本の滞在許可更新時期になったが、それには夫の承認が必要らしいこと」
「反省しているようなことを言って連絡してきたが、信用していないこと」
といきなり話し始めました。そして
「証人になって欲しい」
と言って一枚の紙を差し出しました。
見ると「離婚届」と書いてあります。
自分ともう一人の客は顔を見合わせて、その後二人とも黙って証人欄にサインしました。
そのとき、丁度店に電話が掛かってきました。
どうも相手はその失踪した妻らしく、マスターは怒り狂って
「〇〇〇って言ったよね!」
などと電話にむかって怒鳴っています。
自分ももう一人の客も、もうカウンターで顔も上げられず、うつむいたまま出された料理を食べましたが、当然味も何もわかりません。
急いで出された料理を掻き込んで、それでも不自然にならないように気を遣いながら、いつものように金を払って店を出ました。
次が最後になる予定です。