金がなくていいアイデアが浮かばない起業者

今週になってまた何人かの起業希望者とお会いしてコンサルティングをしたのですが、そのうち2人の方に私が指摘したことで

「まさしくその通り」

と口を揃えて言われたことがありました。

それは表題に書いたことわざが言う通り、

「人間金がないといい考えが浮かばない」

ということです。

あるいは「金がないとろくなことを考えない」と言ってもいいかもしれません。

創業融資支援という仕事をしていて、お会いする起業者の多くは創業資金を求めて自分のところにいらっしゃるわけです。

しかしそうやって起業資金が足りないから自分に相談を持ちかけているはずなのに、中にはまだ迷いを断ち切れず

「借りたくない」

という方がいます。

あるいはもっと多額の融資を受けられる可能性があって、かつその資金があればさらに事業を発展させる手が打てるにもかかわらず、

「最小限でいいです」

という方がいます。

ご本人なりのこだわりやゆずれない一線があったりするのでしょうが、もったいない話だと感じます。

資金的な余裕がなく起業して、もしも当初のもくろみ通りにいかない場合、資金が必要な次の手が打てなくなります。

そうやって起業して数ヶ月で資金がつきて、融資の相談にいらっしゃる方が多いのですが、時すでに遅しです。

こういう状態に陥った起業者の大きな問題のひとつは

「資金不足に陥った起業者のストレス」

です。

起業したばかりというのはそれでなくてもストレスがかかるものなのに、さらに加えて「金が無い」というストレスにもさらされるわけです。

このストレスの中で、残った少ない資金の中で、次に打てる手を考えるわけです。

いい考えが浮かばないのが当然といえます。

もっと平たく言うと通帳に一億の残高がある状態で考えるマーケティングと10万円しかない状態で考えるマーケティングでどちらの方がいいアイデアを思いつくかということです。

実はこれは長年事業を営んでいる経営者についても同じだったりします。

長年事業を営んでいて、それでもうまくいかず、事業再生のためにコンサルティングを依頼されることがあります。

この場合、あれこれやることがあるのですが、その一つに

「資金繰り表を作る」

というものがあります。

資金繰り表というのは、現金に着目して、その将来的な流れを管理する一覧表のことです。

これを見ると、あとどれくらいで現金が尽きるか(つまり支払不能状態に陥るか)どの時点でどれくらいの現金がないとまずいかが一目瞭然でわかります。

これを作る目的は数多くありますが、そのひとつは

「経営者を安心させる」

というものがあります。

つまり

「決算書が赤字になった」
「取引先が倒産した」
「銀行が融資をしてくれない」

などという理由で事業がうまくいっていないことが明らかになるにつれて、当然ですが経営者は不安になります。

このままでは倒産するとわかってはいても、不安が募るばかりで、毎日うろうろするばかりになる経営者は多くいいらっしゃいます。

以前のブログで書きました「思考停止状態」になるわけです。

このときに資金繰り表を見せて、

「最悪でも○○ヶ月は事業が存続できる」

とはっきりさせると、多くの経営者が安心します。

明日をもしれないという気分から、実際には死亡まで余裕があるという気分になるわけです。

そうやって経営者の精神が安定した時点で、次に打てる手を探していきます。

起業も人間自身も生まれたばかりが一番体力がなく、生きるためにも死にものぐるいにならなければなりません。

そんなときに資金という名のミルクがあるかないかがその生死を分けることが多くあります。